火山と海の「見えない動き」を、
データで見える化するしくみ
桜島の降灰・地下のマグマ・黒潮の流れを、本物の観測データとGPUで描くWebアプリの舞台裏
このシステムは何をしている?OVERVIEW
鹿児島には、目に見えない大きな「動き」がたくさんあります。 噴火のあと空を流れる火山灰、地下でふくらむマグマ、海を流れる黒潮——。 このシステムは、気象庁や人工衛星が実際に測ったデータをインターネット越しに集めて、 それをブラウザの3D画面で「動く絵」に変換します。画面は3つのタブに分かれています。
① 降灰フロー
桜島が噴火したら灰がどこへ飛ぶか。気象庁の予報と実測の風で、52万個の光る粒を飛ばす② 震源・地殻変動・熱
地面を透かして深さ250kmまでの地震の震源を立体で見る。衛星が測った地面の温度と、 GNSSが測った地面のミリ単位の動きも重ねる③ 黒潮・海況
海の温度とプランクトンの量で海を色分けし、黒潮の流れを光の筋で描くどんなデータを、どのくらいの頻度で?DATA & UPDATE CYCLE
データはすべて、国の機関や宇宙機関が無料で公開しているオープンデータです。 「元のデータが作られるペース」と「このアプリが取りに行くペース」は別なので、両方書きます。
| データ | 出どころ | 何がわかる? | 元データの更新 | アプリの取得 |
|---|---|---|---|---|
| 降灰予報(定時) | 気象庁 | 「いま噴火したら、3時間ごとに灰がどの範囲に降るか」の予想エリア(18時間先まで6区間) | 1日数回 発表 | 5分ごと確認 |
| アメダス(風) | 気象庁 | 鹿児島・宮崎の約48観測点の風向きと風速 | 10分ごと観測 | 60秒ごと取得 |
| 標高タイル | 国土地理院 | 地形の高さ(3D地図のもとになる) | ほぼ変わらない | 起動時に1回 |
| 地表面温度(Landsat) | USGS(米地質調査所) | 熱赤外で測った地面そのものの温度。1マス30mと細かいが、同じ場所を通るのは8〜16日に1回 | 8〜16日に1回 撮影 | 6時間キャッシュ |
| 地表面温度(Sentinel-3) | ESA(欧州宇宙機関) | 同じく地面の温度。1マス1kmと粗いかわりにほぼ毎日通るので日付が新しい | ほぼ毎日 撮影 | 3時間キャッシュ |
| 海面水温(MUR) | NASA | 海の表面温度。約1kmの細かさで海の「温度地図」がわかる | 毎日 | 3時間キャッシュ |
| クロロフィルa | NOAA(米海洋大気庁) | 植物プランクトンの量。「海の緑の濃さ」を衛星が色で測る | 1日ごと(欠測時は1週間の合成) | 3時間キャッシュ |
| 海面流速 | NOAA(米海洋大気庁) | 人工衛星が海面の高さを測って計算した、海流の向きと速さ | 1日ごと | 3時間キャッシュ |
| 海面流速(詳しい版) 無料登録が必要 |
Copernicus Marine (ヨーロッパ) |
観測とシミュレーションを組み合わせた海洋モデル。潮の満ち引きの流れも入っている | 1時間ごと | 3時間キャッシュ |
| 海面水温(詳しい版) 無料登録が必要 |
JAXA ひまわりモニタ (日本) |
気象衛星ひまわり9号が測った海面の温度。雲で見えない部分は上のデータで補う | 1時間ごと | 3時間キャッシュ |
| 潮位(鹿児島) | 気象庁 | 潮の満ち引き。月と太陽の引力から計算した推算値なので未来のぶんも分かる | 年間表(毎正時) | 6時間キャッシュ |
下の2つは無料の会員登録をすると使えるようになるもので、設定していなければ自動的に 上のデータが使われます。いまどちらが使われているかは、画面右上の「海流」欄に出ています。
「いま」って、どのくらい「いま」?
「リアルタイム可視化」といっても、画面の数字がこの瞬間の値とは限りません。 データが手元に届くまでには、いくつもの段階で少しずつ時間がかかるからです。 いちばん速い風のデータで追いかけてみましょう。
観測される(10分ごと)
アメダスの風速計は10分ごとに値をまとめます。つまりデータそのものが10分刻み。 11時03分の風だけを知ることはできません。
気象庁が公開する(数分の遅れ)
観測した値を集めて公開するまでに、さらに数分かかります。
このアプリが取りに行く(60秒ごと)
サーバは60秒キャッシュ、ブラウザも60秒ごとに聞きに行くので、ここでの遅れは最大1分。
合計すると、画面に出ている風はだいたい5〜15分前の実測値ということになります。 だから画面右上に「アメダス観測 11:10 JST」と観測時刻そのものを表示しています。 科学のデータを見せるときは、「いつの値か」を隠さないことがとても大事です。
重ねた3枚が「別の日」だったら?
ここで、少し考えてほしい問題があります。「黒潮・海況」タブでは、 海の色(水温)・緑のドット(プランクトン)・流れの3つを重ねて1枚の絵にしています。 ところがこの3つは、別々の衛星が、別々の日に測ったものなのです。
| 層 | 測り方 | どのくらい前? | なぜ遅れる? |
|---|---|---|---|
| 海の色=水温 | いくつもの衛星の測定を1日分まとめる | 1〜2日前 | まとめる計算に時間がかかる |
| ドット=プランクトン | 衛星が海の色(可視光)を見る | 1〜3日前 | 昼で、雲がないときしか測れない。曇っていたら次の日待ち |
| 流れ | 衛星が海面の高さのわずかな差を測る | 1〜3日前 | 複数の衛星の軌道データを集めて1日分にする |
たとえば水温は8月20日、プランクトンは8月19日、流れは8月19日……というように、 最大で1日以上ずれた3枚を重ねた「合成」です。 厳密にいえば、この絵とまったく同じ状態の海は、実際には一度も存在していません。
だから画面右上に「層どうしの時刻差」を出し、 差が大きいときは凡例の下に警告を出すようにしています。
本当に問題なのは、合成であることを黙っていること。 「これは今この瞬間の海です」と言ってしまったら、それは事実と違います。 ——やり方は同じでも、説明の仕方で誠実にも不誠実にもなるのです。
もっと「いま」に近づけられる?
実は、無料の会員登録をすれば毎時のデータに差し替えられる層が2つあります (このアプリにはその仕組みが組み込んであります)。
- 水温 — 気象衛星ひまわり9号は日本の上空にずっと留まっているので、 同じ場所を毎時測れます(JAXAが公開)。雲で見えない部分だけ従来のデータで補います
- 流れ — ヨーロッパのCopernicus Marineが出している海洋モデルなら、 毎時・潮の満ち引きも込みの流れが使えます。錦江湾の潮の流れが実データになります
理由は単純で、海の色は太陽の光の反射を見ているから。 夜は真っ暗で測れないし、雲があれば海が隠れて見えません。 どんなに高性能な衛星でも、この壁は越えられないのです。
「技術で解決できる遅れ」と「原理的に解決できない遅れ」を見分ける —— データを扱うとき、とても大事な視点です。
新しくすると、かえって「ずれ」が広がるという逆説
ここが面白いところです。海流を毎時のデータに差し替えると、たしかに海流は新しくなります。 でも水温とプランクトンは古いままなので、3つのばらつきはむしろ大きくなります。 実際に測った数字がこちらです。
| 海流 | 水温 | プランクトン | 3つのばらつき | |
|---|---|---|---|---|
| 登録なし | 3日前 | 1.8日前 | 2.7日前 | 33時間 |
| 登録あり(海流のみ) | 1時間前 | 1.8日前 | 2.7日前 | 63時間 |
どちらが大事かは目的で変わります。「いまの潮の流れが見たい」なら新しさ、 「ある日の海の姿として説明したい」なら、そろっていることです。
このアプリはどちらも選べるようにしてあります。URLの後ろに
?ocean=aligned を付けると、3つを同じ日のデータに揃えて取り直します
(そのぶん全体が少し古くなり、毎時のデータは使いません)。
どちらのモードでも、実際のばらつきが画面右上に表示されます。
どうやって「絵」にしている?PROCESSING PIPELINE
データが画面の絵になるまでは、大きく4つのステップです。
集めて翻訳する(Pythonサーバ)
気象庁のデータはXML、衛星画像は巨大なGeoTIFFファイル…と形式がバラバラ。 小さなPythonプログラムが「通訳」になって全部の窓口から取り寄せ、 ブラウザが読みやすいJSONや画像に変換します。取りすぎ防止のキャッシュもここで管理。
3D地形を組み立てる(色 → 高さの暗号解読)
国土地理院の標高タイルは、じつは高さを色で暗号化したPNG画像。 1ピクセルの色(R, G, B)から 高さ = (R×65536 + G×256 + B) ÷ 100 メートル という式で解読できます。約40枚のタイルを解読してつなげ、 26万個の頂点を持ち上げて鹿児島の3D地形を作ります。
粒を動かす(GPUに52万個を任せるトリック)
火山灰の粒は52万個。CPUが1個ずつ計算したら間に合いません。 そこで粒の位置を「画像」として保存するトリックを使います。 1024×512ピクセルの画像を用意すると、ピクセル1個=粒1個の住所録になります(52万ピクセル=52万粒)。 画像処理が超得意なGPUは、この「住所録画像」全体を毎秒60回書き換えられる—— つまり52万粒を同時に、風で流し、重力で沈め、寿命が来たら火口に戻せるのです。
光らせる(足し算の光=濃さ)
粒はうっすら光る点として描き、重なったら明るさを足し算します。 すると粒が密集した場所ほど自動的にまぶしくなる——つまり 明るさがそのまま「灰の濃さ」を表す正直なグラフになります。 仕上げに、まぶしい部分だけをにじませる「ブルーム」という映画でも使う効果をかけて、 夜景のような見た目にしています。
タブ①「降灰フロー」のしくみASHFALL
灰の粒は高さによって違う風に乗ります。そこで風を2階建てにしています。
- 低い空(〜400m): アメダス48地点の実測の風を、 「近い観測点ほど強く効く」ルール(逆距離加重)で混ぜ合わせた風の地図を作って使う
- 高い空(2.8km〜): 気象庁の予報エリアから逆算。 予想エリアが火口から見てどの方角に伸びているか=上空の風向き、 どこまで届くか÷3時間=風速(例: 150km先まで → 秒速約14m)
1つの粒の一生はこうです: 火口から秒速20〜75mで噴き上がる → 噴煙の柱の中で渦を巻く → 風に乗って流される → 粒の大きさに応じて沈む(大きい粒ほど速く落ちる)→ 着地して数秒光る → 火口に戻って再出発。 着地した場所は「積もり具合マップ」に記録され、灰が集中した地域が 暗い赤→オレンジ→黄色の順で光ります。時間は現実の約180倍速で進みます。
青い矢印は2種類ある — 「測った風」と「推理した風」
画面に出ている風の矢印をよく見ると、色の濃さと太さが違う2種類があります。 これは見た目の飾りではなく、実際に測った値なのか、計算した値なのかを区別するためです。
- 明るいシアンの太い矢印=アメダスが実際に測った風(現在48本)。 1つの観測所につき1本なので、これ以上は増やせません。 数を増やしたくても、観測所がない場所の風は誰も測っていないからです
- くすんだ青灰色の細い矢印=観測点の間を推理した風(現在134本)。 粒子を動かしているのと同じ「風の地図」を、約15kmごとに読み取って矢印にしたものです。 観測所から42km以上離れた場所は推理の根拠が弱いので描いていません
「測った値」と「計算した値」を同じ見た目で並べてしまうと、 観測していない場所まで観測したように見えてしまいます。これは避けなければいけません。
なお、カメラを水平近くまで倒すと矢印は自動的に消えます。桜島の山のかたちや噴煙柱を 横から観察するとき、手前の矢印が邪魔になるからです。
タブ②「震源・地殻変動・熱」のしくみSEISMICITY × LST × GNSS
宇宙から地面の温度をはかる
すべての物は、温度に応じた強さの赤外線を出しています。 その中でも波長10µmあたりの熱赤外は、0〜50°Cくらいのふつうの地面が いちばん強く出す波長です。衛星でその強さをはかり、 「この強さなら何度か」を物理の式(プランクの法則)で逆算すると、 地面そのものの温度が°Cで求まります。これを地表面温度といいます。
このタブでは2つの衛星を切り替えられます。同じ「地面の温度」ですが、得意なことが逆です。
- Landsat(1マス30m) — 細かい。街路や畑1枚ごとの温度差まで見える。 ただし同じ場所の上を通るのが8〜16日に1回なので、日付が古くなりがち
- Sentinel-3(1マス1km) — 粗い。1km四方の平均になる。 そのかわりほぼ毎日通るので日付が新しい
「細かさ」と「新しさ」は同時には手に入りません。 これは衛星の設計そのものに理由があります。細かく見るには狭い範囲しか撮れず、 広く撮ろうとすれば粗くなる——だから同じ場所に戻ってくるまでの日数が変わるのです。
雲を消さないと、まったくの嘘になる
衛星がはかっているのは「上から見えた面」の温度です。 雲があれば、それは地面ではなく雲のてっぺんの温度。 高い雲ほど冷たく、−20°Cくらいになります。
これをそのまま色にすると、雲のあるところが「ものすごく冷たい地面」として描かれてしまいます。 そこで衛星データに一緒に入っている「ここは雲」という印を使って、雲の画素を全部捨てています。 さらに雲のふちは半分だけ雲がかかった中途半端な値になるので、1マス分よぶんに捨てます。 画面で色がついていない場所は、雲だったか、衛星の通り道の外だった場所です。
なぜ「お昼に撮ったもの」しか使わないのか
Sentinel-3は昼も夜も同じ場所の上を通ります。でも晴れた日の地面は、 昼と夜で20°C近くちがいます。実際に2026年8月19日のデータを調べると、 夜の便で測れた最高温度は28.9°C、同じ日の昼の便では41.4°Cでした。 夜の便と昼の便を混ぜると色の意味が変わってしまうので、 現地時間で9〜15時に通った便だけを使うようにしています。
地面の下を透かして見る — なぜ桜島はそこにあるのか
このタブの「地下ビュー」ボタンを押すと、地形が半透明になって 地面の下が見えます。光っている点のひとつひとつが、 過去に実際に起きた地震の震源です(USGSの観測カタログ)。
回して斜め下から眺めてみてください。点の集まりが2つの層に分かれているのが分かります。
| 深さ | 件数 | 色 | 正体 |
|---|---|---|---|
| 0〜50km | 619 | 橙 | 地面の浅いところで起きる地震 |
| 50〜125km | 96 | 桃 | あまり起きない「すきま」 |
| 125〜180km | 74 | 青 | 海のプレートが沈み込んでいる場所 |
青い点の並びが、桜島がある理由そのもの
日本の南の海にはフィリピン海プレートがあり、九州の下へ斜めに沈み込んでいます。 青い点はその沈み込んでいる板の中で起きた地震で、斜めに傾いた面に並びます。
ここからが面白いところ。沈み込んだ板は深さ150kmあたりで 水を絞り出します(岩石に含まれていた水が熱と圧力で追い出される)。 その水がまわりのマントルに入ると、岩石の融ける温度が下がってマグマができます。 軽いマグマは上へ上へと昇り、姶良カルデラの下にたまり、桜島から噴き出す——。
深さ150kmの青い点と、地表の桜島は、一本の線でつながっているのです。
「何を誇張してよくて、何を誇張してはいけないか」——可視化をつくるときの判断です。
地面が動いた量を「実際に測る」— GNSS
いまこのタブに出ている矢印は、本物の観測データです。 国土地理院が全国に約1,300か所置いている電子基準点が、 GPSなどの衛星電波から毎日「自分の位置」を測っています。 桜島・垂水・姶良・鹿屋など、桜島のまわり16か所のデータを使っています。
- 水色の矢印 = 横方向に動いた量と向き
- オレンジの柱 = 持ち上がった(隆起)/青い柱 = 沈んだ(沈降)
ひっかけ問題: 桜島は半年で東へ21mm動きました。これは火山のせい?
答え: ほとんど違います。 日本列島が乗っているプレートそのものが 1年に3〜4cm動いているからです。桜島だけでなく、鹿児島も鹿屋も串木野も、 みんな同じように東へ動いています。
では火山のせいの動きだけを見るには? 離れた場所を基準にして引き算します。 このアプリでは桜島から西へ45km離れた串木野を基準にして、 「串木野と比べてどれだけ余分に動いたか」を表示しています。 こうすると共通のプレート運動が消えて、その地域だけの動きが残ります。
操作パネルで「今年/1年前/3年前/10年前」を選べます。
短い期間: 火山の動きが相対的に見えるが、量が小さくノイズに近い
長い期間: 量は大きくなる(3.5年で最大73mm)が、 九州全体がゆっくり歪んでいる動きが主役になり、火山だけの話ではなくなる
どちらが正しいというものではなく、何を見たいかで選ぶものです。
参考: 虹色の縞は「ものさし」(現在は非表示)
?mogi=1 を付けると見られます)。レーダー衛星は地面に電波を当てて、同じ場所を2回測り、電波の波のズレ(位相)を比べます。 すると地面が数cm動いただけでも検出できます。これが干渉SAR(InSAR)という技術。 結果は「縞1本=電波の半波長ぶんの変位」という等高線になります (Sentinel-1なら1縞=2.8cm、だいち2号なら1縞=12.1cm)。
桜島の地下では、錦江湾の北にある姶良カルデラの深さ約10kmにマグマがたまり、 山がごくわずかにふくらんでいます。このふくらみは 茂木モデルという日本の研究者が考えた式(地下の風船がふくらむと地表がどれだけ持ち上がるか) で計算でき、画面のスライダーでマグマの量や深さを変えると、縞の数が物理法則どおりに増減します。
「視線方向」ってどっち?
縞の説明に出てくる「視線方向」とは、地面から人工衛星を見上げる向きのことです。 このアプリではほぼ東の空・地平から約54度の高さに衛星がいる設定にしてあります。
ここが大事なところ。レーダーはその1本の直線に沿った動きしか測れません。 地面は上下にも東西にも南北にも動きますが、分かるのは「衛星に近づいたか、遠ざかったか」だけです。
| 地面の動き | 縞への効き方 |
|---|---|
| 真上に1cm 持ち上がる | 8.1mm ぶん — いちばんよく効く |
| 東に1cm ずれる | 5.8mm ぶん(衛星に近づくので同じ向き) |
| 北に1cm ずれる | 1.0mm ぶん — ほとんど分からない |
南北の動きにとても鈍いのは、実際の干渉SARでも同じ弱点です。 だから研究では、南から北へ飛ぶ軌道と北から南へ飛ぶ軌道の2方向を 組み合わせて、この弱点を補います。
この縞は「いつからいつまで」のふくらみ?
実際の干渉SARは、必ず2回の撮影日がセットになります。 「3月10日と3月22日の間に、地面がこれだけ動いた」というのが本来の意味です。
でもこのアプリの縞は、スライダーで「マグマだまりが○○m³ふくらんだとしたら」と 仮定した数字からその場で計算しているだけ。 始まりの日も終わりの日も存在しません。
スライダーを動かすと縞が増えるのは、時間が進んだからではなく、 仮定した膨張量を変えたからです。
このアプリは観測データを使っておらず、計算だけなのできれいな同心円しか出ません。 逆にいえば、同心円=火山のふくらみ、途切れた縞=断層のずれと 読み分けられるようになります。
タブ③「黒潮・海況」のしくみOCEAN
色は水温、ドットはプランクトン — 役割を分ける工夫
水温とプランクトン量を両方「色」で表すと、混ざってどちらか分からなくなります。 そこでグラフの鉄則「1つの値には1つの見せ方」に従い、役割を分けています。
- 海の色 = 海面水温 — 冷たい水は深い藍、黒潮の暖かい水は金色
- 緑の小さなドットの密集度 = プランクトンの量 — ドットがある場所は プランクトンがいる海域。衛星が海の「緑の濃さ」から測ったクロロフィル濃度が 高いほどドットが密に打たれる(新聞の写真のような点描表現。色は葉緑素にちなんだ緑)
「流れ」は、測った海流と推理した流れの合成
測った海流と、水温から推理した流れを足し合わせたものです。 実際に数字で測ってみると、流れの強さのうち「測った海流」が占めるのは2割ほど。 錦江湾の中に限ると1割まで下がります。
だから画面には「実測由来は約○%」とその場で計算した数字が出るようにしてあります。
流れの土台には、衛星が測った実際の海流(海面のわずかな高低差から 計算できる「地衡流」。毎日更新)を使います。ただしこのデータは約25km格子と粗く、 湾の中の細かい流れは写らないため、細部は海面水温の地図から流れを推理して補います。 海の大きな流れには 「温度の境目(フロント)に沿って流れる」という性質があるからです (黒潮が「暖かい水の帯」に見えるのはこのため)。 水温の変化が急な向きを90°回転させると、等温線に沿う流れの向きになります。 これに黒潮の基本の流れ(東北東へ)と、湾の入り口で潮がぶつかる渦を足し、 26万個の粒を流します。粒の軌跡は少しずつ消える「残像バッファ」に描かれ、 速い流れだけが白く光るので、黒潮本流がリボンのように浮かび上がります (流線を白にしているのは、水温の色と混ざらないようにするためです)。
衛星高度計のデータ(1日ごと)には潮の満ち引きが入っていません。 なので、そのままでは湾の潮流を描けず、渦は演出として足しています。
一方、Copernicus Marineの毎時データ(無料登録が必要)を使うと、 潮汐流が実データとして入ってきます。そのときアプリは 演出の渦の強さを自動的に約4分の1まで下げ、実データを主役にします。
実データが手に入ったら演出を引っ込める —— この切り替えを自動でやることが、 「演出はあくまで穴埋め」という姿勢を保つ仕組みになっています。
潮の満ち引きは、本物のタイミングで動いている
湾の中の渦は演出ですが、いつ向きが変わるかは本物のデータに合わせてあります。 気象庁が公開している潮位表(鹿児島)を使っているのです。
ここで一つ、面白い物理があります。「潮が最も速く流れるのは、いつだと思いますか?」 満潮のとき? 実は違います。
錦江湾は入り口が狭くて奥が深い形をしています。 お風呂の栓を抜いたときを想像してください。水がいちばん速く流れるのは、 水位がいちばん速く下がっているときですよね。
海も同じで、湾に出入りする水の量は「水位が1時間にどれだけ変わるか」で決まります。 満潮と干潮の瞬間は水位の変化が止まるので、流れも止まります(これを憩流といいます)。 流れが最速になるのは満潮と干潮のちょうど中間なのです。
そこでアプリは、潮位表から「1時間あたりの潮位の変化」を計算して、 その値で渦の強さと向きを決めています。プラスなら上げ潮、マイナスなら下げ潮。 画面右上に「180 cm 上げ潮」のように、いまの潮位と潮の向きが出ます。
潮位表は1か所の水位を教えてくれるだけで、 「湾のどこがどう流れているか」までは分かりません。 渦を置く場所は固定のままですし、流れの速さの分布も推定のままです。
あるデータで何が言えて、何が言えないか —— ここを区別するのが大事です。
ただし台風などで気圧が下がると海面が持ち上がる(高潮)ので、 そのぶんのズレは潮位表には入っていません。
どこまで信じていい? — スケールで答えが変わる
| 見ているもの | 実際の海に近い? | 理由 |
|---|---|---|
| 黒潮本流の位置と大まかな向き | ◯ 近い | 衛星が測ったデータがそのまま効いている部分 |
| 湾の中や沿岸の細かい渦 | × 実際の観測ではない | 元データの格子が約9kmなのに対し錦江湾の幅は約20km。 湾を横切る点が2〜3個しかなく、そもそも写っていない |
| 流れる速さ | × 対応しない | アニメーションは現実の約300倍速(スライダーで変えられる) |
| 潮の向きが変わるタイミング | × 対応しない | 潮の周期は架空のもので、実際の潮汐表とは無関係 |
だから「湾内の流れは推理と演出です」と書くしかない。 データにできることとできないことを見極めるのも、科学の大事な仕事です。
本物のデータと「演出」の区別DATA vs. STAGING
- 本物のデータ(実測) — 風、地形、警戒レベル、衛星写真と熱の指標、 海面水温、クロロフィル濃度、海面流速
- 予報 — 降灰の予想エリア(後述。観測ではなく「予測」です)
- 計算による予測(モデル) — 干渉縞(茂木モデルの理論計算。実際の観測画像ではない)
- 演出 — 常に噴火しているような粒の噴出、噴火バーストボタン、湾口の渦。 「もし起きたら」を体感するためのもので、画面の凡例にも明記しています
いちばん誤解しやすい2つのこと
火山灰の粒は、実際に噴火が起きているかどうかとは関係なくずっと噴き出し続けます。 桜島が静かな日でも、画面の中では噴煙が上がっています。 これは「噴火したらどう流れるか」を体感してもらうための演出です。
本当に噴火速報が出ているときは、画面左上のバッジが 「噴火速報 発表中」に変わって赤く点滅します。 「噴火速報 なし」と出ているあいだの噴煙は、演出だと思ってください。
気象庁の降灰予報(定時)は、〈いま噴火が起きたと仮定して、 3時間ごとの区間ごとに灰がどこへ流れるか〉を計算したものです。 実際に灰が降った範囲を観測した結果ではありません。
画面下の「予報時間帯」のボタンで区間を切り替えられます。 たとえば「12-15時」を選んでいるときの灰の向きは、 12時から15時のあいだに噴火した場合の予測方向です。 いま何時の予報を見ているかは、画面右上の「予報対象時刻」に出ています。
数字で見るこのシステムBY THE NUMBERS
(1024×512ピクセルの状態画像)
(52万個 × 60回)
(+2は無料登録が必要なもの)
(すべて公開オープンデータ)
ミニ用語辞典GLOSSARY
- オープンデータ
- 国の機関などが「誰でも自由に使っていいよ」と公開しているデータ。このアプリの材料は全部これ。
- API(エーピーアイ)
- プログラム同士がデータをやりとりするための窓口。「このURLにアクセスすると最新の風のデータを返します」のような約束ごと。
- GPU(ジーピーユー)
- もともと画面の絵を描くための部品。単純な計算を何十万個も同時にこなすのが得意なので、粒子の計算に借りている。
- シミュレーション
- 現実のルール(風に流される、重力で落ちる…)を数式にして、コンピュータの中で再現すること。
- SAR(合成開口レーダー)
- 電波で地表を観測するレーダー。雲があっても夜でも観測でき、位相を比べると数cmの地面の動きまでわかる。
- クロロフィルa
- 植物プランクトンが持つ光合成の色素。海の色から量を推定でき、「海の豊かさ」の指標になる。